LOST

「湿気た面してんな。」 そいつは開口一番そう言った。 【lost 番外編、爛】 殴られた野郎の、その脅えた顔がたまらない。 俺はいつの間にか血の色に染まってしまった髪を掻き揚げ、唇を歪めた。 なんて事はない。 どうせ俺もこいつらもこの世に居場所なんかない。 どっちが死んでも、世界は何も変わらないし、 ちょっと関わりのあった奴らが「そういえば最近顔見てないな」とか思うか思わないかくらいだろう。 喧嘩は楽しいし、 血を見るのも嫌いじゃない。 殆どの奴らは俺に勝てる訳ないし、 負ける気もなかった。 アイツに出会うまでは。 「湿気た面してんな。」 いつも通り、そこら辺のチンピラ殴って、 返り血浴びて一時の快楽に浸っていた俺は、 背後から聞こえてきた声に驚き、 勢いよく振り返った。 殴る事に集中していたとは言え、 己の後ろに人が来ていた事に気付かなかった事が信じられなかった。 そして、振り向いた俺はその人物を視界に捕らえて、 絶句した。 月光と見間違うほどの見事な銀糸。 そいつも、俺と同じ様に誰かの返り血を浴びていたが、 その滴る血の一滴までもが美しく見えた。 「お前も俺と同じ…」 「は?」 「絶望者だ。」 綺麗に微笑みそう言った。 絶望…あぁ、確かにそうだ。 俺はこの世に絶望していた。 この”光”を見るまでは。 俺は薄らと笑みを浮かべ、そいつに言った。 「いや、たった今”光”を見つけたぜ。」 「?」 俺の言葉にそいつは訳が分からないというように首を傾げた。 しかし、俺はそれを気にする事無く再び口を開いた。 「なぁ、お前の名前、教えろよ。」 「…名前…そうだな、”シュン”。僕は”シュン”だ。」 「明らかに今考えただろ。」 「仕方ないじゃないか、一応お忍びでここにいるんだから。」 「そうかよ。まぁいいや、いつか教えろよな。」 「気が向いたらね。…で?そっちは何て名前?」 「俺は爛だ。」 「本名?」 「一応な。」 そう答えると、シュンは満足気に笑った。 その笑顔を見て思う。 「なぁ、シュン」 「ん?」 「今決めた。 俺はお前についていくぜ、一生な。」 突然の俺の宣言に、 一瞬、シュンは狐につままれたような顔をしたが、 複雑そうに笑うと、 「物好きだね。」 と、言った。 物好きなんてとんでもねぇよ。 今に俺みたいなヤツがごろごろ出てくるさ。 まぁ、誰に渡さねぇケドな。 心の中でそっと誓いを立てる。 それからすぐに仲間は増えて、 あっという間に俺たちは”風神”という最強チームになった。 シュンと二人きりになれることは殆どなく、 俺は日々仏頂面である事が増えた。 「爛。」 「…シュン…」 「眠いんだ、肩貸して。」 「いいけどょ。」 それでも、まぁいいやと思えるのは。 今でもシュンが寝顔を見せるのは、 翔伊さん以外で、俺だけだから。 「もう少しだけ、優越感に浸っててもいいよな?」 -END-